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2006年07月30日
 ■ 【書評】『美しい国へ』(安倍晋三著、文藝新書、730円)

ボンボン政治家の「闘う政治家」宣言

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 安倍晋三氏と私は同い年である。私は1954年の4月生まれで、安倍氏は9月。今年(06年)共に52歳である。私たちの世代は、安倍氏も述べているように「団塊と新人類にはさまれた、どちらかというと影のうすい世代」である。その「影のうすい世代」の中から、わが安倍晋三クンが、いよいよ総理大臣に挑戦するという。同じ世代として感無量だ。

 安倍晋三氏は、元首相の孫、元大臣の息子ということから「苦労知らずのボンボン」と言うイメージが強い。「北朝鮮拉致事件」「靖国参拝」などでの硬派な言動にもかかわらず、人柄としては「いいとこの坊ちゃん」のイメージが抜けない。本人もその点を気にしてか、本書で、自分を「闘う政治家」と宣言して「ボンボン」メージの払拭に懸命である。

 しかし、残念ながら、本書をいくら読んでも、闘うことによって実現しよとする社会像がイマイチ見えてこない。「日本の真の独立」とか「損得を超えた価値」とか「家族の絆」とか「郷土愛」とか「愛国心」などなど、保守派の定番キーワードは頻繁に出てくるが、言葉が上滑りしている感は否めない。

 むしろ、「社会保障」に関して述べた部分の方が、意外にも「…やみくもに小さな政府をもとめるのは、結果的に国をあやうくする」との考えが打ち出されており、真っ当である。安倍氏はイギリスのチャーチルを尊敬していると言う。「社会保障」重視の政治家だ。「再チャレンジ可能な社会」などの政策的立場が、単に総裁選用のリップサービスではなく、この尊敬する師の教えに沿ったもであるならば、おおいに歓迎できる。安倍氏は、安全保障問題より社会保障問題のほうが、本当は得意なのではないか。

 最後に本書のタイトルについて。ネットで「美しい国」と検索したら『美しい国日本の使命』という本がヒットした。世界基督教統一神霊協会の日本初代会長・久保木修己氏の遺稿集だという。同協会系の合同結婚式への安倍氏の祝電といい、似たタイトルといい、両者の関係はどうなっているのか。「説明責任なんか知らない!」と思っているとしたら、アベちゃんは、やっぱり「ボンボン」だ。

『美しい国へ』(安倍晋三著、文藝新書、730円)

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