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2011年10月22日
 ■ 「ウォール街を占拠せよ」 /拡大する「デモス(99%)による革命」

 アメリカ・ニューヨークで「ウォール街を占拠せよ」の運動が続いている。カナダの環境問題を扱う「アドバターズ」誌の呼びかけで、九月一七日からズコッティ公園を中心にして始まった「占拠」とデモ。大量の逮捕者を出しながら、またたく間に全米各地に波及し、一〇月一五日には全世界的な同時アクションも行われ、日本でも「オキュパイ・トウキョウ」が取り組まれた。
 この運動を評して「アラブの春に触発」「リーダー不在」「ツイッターやフェイスブックで参加者拡大」「政治目標(要求)が不鮮明」などと語られているが、いずれも「当たらずとも遠からず」にとどまる。運動参加者が何に怒って「ウォール街を占拠」し続けているのかが見えて来ないからだ。

 『インサイド・ジョブ』

 「リーダー不在」「ツイッターやフェイスブックで参加者拡大」とは、問題の本質がそれだけ多数の民衆に共有されている、ということの現れだ。では、運動参加者は何に怒り、何を求めているのか、それを理解するのに役立つDVDがある。『インサイド・ジョブ―世界不況の知られざる真実』(監督・チャールズ・ファーガソン/二〇一〇年/アメリカ)。三年前のリーマンショック(投資銀行リーマン・ブラザーズの経営破綻を契機にした世界的な金融危機)とは何だったのか、関係者のインタヴューで明らかにしたドキュメントだ。
 映画は、発端となったサブプライムローン問題を、証券会社と銀行と格付会社と学者、それに政府がグルになって、一般市民から金を巻き上げるために作ったネズミ講だったと、断じる。さらに、リーマン破綻の一方で、FRBからの融資(八五〇億ドル)で救済された保険会社AIGからゴールドマン・サックスに巨額の資金が流れたことも明らかにする。そして、勝ち残ったゴールドマンサックスをはじめウォール街の強欲金融機関の幹部が、今もオバマ政権で要職についていることを告発している。
 映画は最後のシーンでこうよびかける。「相手は手強い。だが闘う価値はあるのだ」。
 リーマンショックは「九九%」の人達から、家を奪い、職を奪い、健康保険を奪った。これに対して「一%」の人達は、金融機関救済のために投じられた税金を自分の懐にしまい込み、今も政府の要職に就き、金融機関を優遇する歪んだ政治を続けている。こうした政治全体を変えようと、リーマン・ブラザース破産から三年目の本年九月一七日、「ウォール街占拠」が始まったのである。

 「占拠闘争」はウィスコンシンから

 アメリカの民衆が、金持ち優遇政治に対する抗議運動を「占拠闘争」として始めたのはウォール街が初めてではない。ウィスコンシン州では、本年一月に就任したスコット・ウォーカー新知事が「赤字対策」とし称して、公務員労組の団体交渉権を大幅に制限する法案を含む予算修正法案を提出し、これに反対する公務員労組をはじめ警察や消防の労組や市民七万人がデモを行ない、州議事堂を三週間にわたって「占拠」する大闘争が展開された。
 知事が州兵を動員する姿勢をみせると「戦争に反対するイラク帰還兵の会」の元兵士が、州兵に対して、民衆のために働く公務員として出動しないよう、呼びかけたという。(参照『世界』六月号「米国に広がる民主主義の崩壊と寡頭政治の台頭」金克美)。
 反動知事スコット・ウォーカーの狙いは「州財政の赤字」を演出して労働組合との「最終戦争」に決着をつけることであった。ナオミ・クラインはこの手法を「ショック・ドクトリン」と呼び、ウィスコンシン州にも適用されたと言う。
 法案が強行採決された翌週にはトラクターも含め、一八万人がデモで抗議した。これだけ多くの人々が立ち上がったのは、事の本質は一労組の権利問題にとどまらず、財政赤字の解消を口実にして一層の市場化=貧困化が進められようとしていること、そして、政治がますます一握りの富裕層によって牛耳られることへの危機感と怒りがあったからに違いない。

 「デモス(九九%)による政治」へ

 アメリカも日本も、政権交代があったにも関わらず、格差拡大―企業・富裕層優遇の政治から脱することが出来ない。それは「ポスト・デモクラシー」と呼ばれる、不利益を被る圧倒的な多数者を政治参加から排除する体制が、高度成長の終焉、グローバル化の進展とともに構築されてきたからである。
 しかし「ウォール街を占拠せよ」運動は明らかに「ポスト・デモクラシー」体制への民衆側からの挑戦となっている。打倒すべきはウォール街の強欲どもとともに、「一%の一%による一%の政治」(ジョゼフ・ステグリッツ)、つまり、格差拡大を生む政治構造それ自身だ。替わって創りだされるべきは「デモス(九九%)による政治」に他ならない。それは「アラブの春」として、ウィスコンシン州議事堂占拠として、ウォール街占拠として、そして、日本では「原子力ムラ」への挑戦として、すでに始まっている。

 「相手は手強い。だが闘う価値はあるのだ。」


* 『グローカル』2011/11/01号、掲載予定稿

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