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2006年03月31日

フランス雑感

 ■未来の先取りか、前世紀「階級闘争」の残り火か

 フランス民衆のCPE(初期雇用契約)撤回闘争は、28日にゼネストと300万人デモを実現し、ドヴィルパン内閣を追いつめています。しかし、日本のマスコミの取り上げ方は、「デモ隊が暴徒化した」とか、「来年の大統領選挙の前哨戦」など、瑣末な点に光をあてたものがほとんどです。
 恥ずかしながら私自身も、このCPEを中心にした「機会平等法」がフランス議会に提出され、高校生たちが猛然と反対運動に立ち上がった時点でも(2月初旬)、この問題がほとんど眼に入っていませんでした。だから、他人のことはとやかく批判できる立場にはありません。
 当地では、28日の大行動に続き、5大労組と学生組織が、4月4日にも同様な行動を行うようです。30日の憲法評議会の結論の行く末(26歳未満の若者だけに適用されるCPEが憲法の定める「法の下の平等原則」に反していないか否か)、シラク大統領の動向などなど、「政局」という意味でも、待ったなしの緊迫した場面が訪れようとしているようです。
 ところで、このフランス民衆の反CPEの大闘争とは、いったい、いかなる意味をもったものでしょうか。「階級闘争が最後まで闘われるのがフランスである」と語ったのはマルクスですが、確かに「徹底して闘われている」ことは、日々のニュースでも理解できます。しかし、分からないのはその先です。
 つまり、フランスの事態は、グローバリゼイションの中で、先進各国がいつかは通らねばならない未来を先取りしたものなのか、それとも、他の先進国ではほぼ「終息」しかに見える前世紀の「階級闘争」の残り火なのか、という点です。

 ■ 「終身雇用」の国=フランス

 今回の反CPE闘争の盛り上がりの頂きに立ち、逆の方向を眺めてみると、これまでのフランス社会の特徴が浮かび上がってくるように思います。それは、フランスは日本よりずっと「終身雇用」が定着している社会であるということです。
 もちろん、失業率は平均で10%、若者のそれは22%、さらに郊外の若者(移民)は45%、という数字は尋常ではありません。しかし、そうした失業者が存在している一方、いったん「雇用」されると、法的にしっかりと保護され、解雇の手続きも厳重で、補償金もたくさんもらえる(らしいのです)。雇用者と失業者のギャップが激しいのがフランス社会です。
 また、日本では1600万人/30%を越えた「非正規雇用者」は、フランスではたったの5%です。(「有期限労働者」の割合)。大多数の労働者は「無期限雇用」(正規雇用)として雇われ「一つの職場に一生勤める」ことを前提にしたライフスタイルを描くようです。こうした「終身雇用」が前提になっているので、長期のバカンス休暇を採っても、それを理由に解雇される心配がないのですね。(勿論「休暇」に対する社会の認知度の違いもありますが)。
 こうしたフランス特有(?)の「社会モデル」が、今回の反CPE闘争の盛り上がりの背後にあるようです。ここを理解しないと、なぜ、今度の闘争が全民衆的な規模で盛り上がっているのか、わからないのではないかと思います。

 ■ 「機会平等法」が生み出す「不安定雇用」

 さて、ドヴィルパンは、こうした「旧い社会モデル」を、資本・企業の側の自由度を拡大した「新しい社会モデル」へと「改革」したいわけですが、その時のリクツ立てに「平等」の概念を持ち出してきたのは、さすが「自由・平等・博愛」の国です。
 ドヴィルパンはあからさまに「「資本・企業に自由を!」とは言いません。そうではなく、失業者と雇用者が固定されている現状を打破し、誰にでも(=この法では26歳未満の若者)、雇用の機会(=2年間の初期雇用)を、平等に与える、と言います。それが、今回、議会で成立した「機会平等法」です。その法律の詳しい内容は、駐日フランス大使館のHPにあります。
 http://www.ambafrance-jp.org/article.php3?id_article=1054
 これを見ると、今回の「機会平等法」の契機は、昨年の秋の「郊外」における若者の反乱にある、と政府が説明していることがわかります。ドヴィルパンは、「郊外」における若者の失業問題を、資本の裁量権を強化する「改革」によって「解決」しよういうのです。でも、そんなことが可能なのでしょうか。
 フランスの若者は一枚岩ではありません。実態は次ぎのような階層に分かれています。
(1)郊外の若者…半数は失業中
(2)低学歴・非熟練の若者…多くは有期・不安定雇用
(3)高学歴・専門分野の若者…正規雇用
 CPEは、雇用においてこのような「不平等」の関係にある三つの階層に対して、「26歳未満の若者」という新しい境界線を引き、その年齢層すべてに「二年間の有期雇用」という網をかけることによって、従来の雇用をめぐる「不平等」を解消しようというのです。
 これで一番割を食うのは、高学歴、専門分野で、これまでは卒業と同時に正規雇用されてきたエリートの若者です。
 政府は、CPEによって若者内の「不平等」が「解消」されたら、今度は、若者と大人(30歳代~50歳代)の「不平等」を解消するために、CPEの年齢規制(26歳未満)と、CNE(新規雇用契約)の事業規模条項(従業員20人以下)を撤廃するでしょう。そうすれば、新規採用者をすべて「有期雇用者」にすることが可能になります。
 ドヴィルパンが言うように、CPEをテコにして、失業率は低下するかも知れません。しかしそれは、フランス社会が「終身雇用」の社会から、「有期雇用」「不安定雇用」の社会へと大きく変わることを意味します。

 ■ 日本版「CPE」に 「ワークシェアリング」を対置

 フランスを「旧い社会モデル」とすれば、日本はどうでしょう。「新しい社会モデル」にむけた「改革」はフランスよりずっと進んでしまっている、と言わざるを得ません。不安定雇用者の割合は、女性と若者では半数に上り、男性でも三分の一まできてしまっています。そして、この雇用形態による諸々の差別が「格差社会」の根源になっています。
 そればかりか、政府は、現状を更に「改革」するために、日本版「CPE」を作ろうとしています。今、政府が準備をしている「労働契約法制」の中に盛り込みたいとされる「試行雇用契約」がそれです。
 

 「試行雇用契約」とは、労働者の適性や能力を見るために有期(最長3年)の有期雇用契約を締結するものです。試行期間が過ぎたとき、使用者が「こいつには適性がない。能力不足だ」と判断すれば、それで雇用契約が終了するというものです。ただ、差別や年次有給休暇などの正当な権利を行使したことを理由にして雇用契約の終了はできないとされていますが、その場合でも労働者は本採用を要求することができず、損害賠償しか求めることができないとされています。ブログ「夜明け前の独り言―水口洋介」より

 考え方は、ドヴィルパンのCPEとまったく同じです。これを提案している側は「常用雇用となる契機となって労使双方に利益をもたらす」と主張しています(「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告、2005年9月)。
 フランスの民衆は「資本・企業の解雇の自由」に対して、「現状の社会モデルは守るべきものである」という立場を鮮明に打ち出しています。「守るべき」「社会モデル」をすでに失ってしまっている日本の私たちですが、この点は大いに学ぶべき点だと思います。
 しかし、フランスの「旧い社会モデル」は、移民や若者を「排除」した上に、白人・大人の正規雇用者を特権的に保護する社会でもありました。ここにドヴィルパンはクサビを打ち込んできているのです。
 日本でも同じことが言えます。「正規雇用」や「終身雇用」は守るべきものです。しかし一方で、若者と女性の多くがそこから「排除」され、短期・不安定な働き方を余儀なくされています。これを放置したままで「正規雇用」や「終身雇用」を守れ、と主張することは、結果として「特権を守れ」と言うのと同じです。
 解決の途は一つです。「ワークシュアリング」です。
 5年ほど前にブームになったこの言葉も、今は口にする人は希です。しかし、一方に、生活を想定しない働き方を強いられる正規労働者があり、他方に、失業者と生活できない低賃金の不安定雇用労働者があるとき、「ちょうどいい働き方」は、その中間にあることは誰にでも理解できることです。
 「ワークシュアリング」発祥の地で、その一つの変形として提起されたCPEが猛烈な抵抗にあっています。このせめぎ合いの中から、「機会」だけではなく「結果」としての平等を保障する、バージョンアップされた「ワークシュアリング」が生み出されてくることに注目したいと思います。

投稿者 mamoru : 2006年03月31日 23:58

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