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2006年08月13日

「恋するトマト」エガッタヨ~。

tomato.jpg 私がこの映画を知ったのはNHKラジオでした。大地康雄さんがゲストに出演していて「10年間あたため続け、ついに完成しました」と興奮ぎみに語っていたのを聴いたのです。
 それまで大地さんについては「演技のうまい脇役」ぐらいにしか思ってませんでし。しかし、この映画をみれば、大地さんが「脇役」どころか、企画・脚本・制作総指揮・主演の一人4役をこなすスーパーアーテストであることがわかります。

 その大地さんが、日本の農業に心底危機感をもって作った映画がこれ。映画の構想を練り上げるのと、日本農場の実態を知るために、日本の各地の農村を訪ねたらしいです。

 舞台は、茨城県・霞ヶ浦近くの農村。大地さん扮する野田正雄は、両親と三人で農業を続けている。しかし独身。農家に「嫁」は来ない。映画では、農協主催の交流ダンス会で知り合った女性(富田靖子)から、いったん、結婚の承諾を得るが、結局、破談。フィリピンパブで知り合った女性(レビー・モレノ)とは、結婚準備のためにフィリピンにまで出掛るが、家族ぐるみの詐欺で、持参金すべてを盗られてしまう。そして現地に残って…。

 農業問題は、私にとっても、色々な意味で人生を決めたテーマです。

 正雄が「なんでおれを農家の長男なんかに生んだんだッ」と怒鳴るシーン。他人ごとではありません。子供のころ(中学生)、私も同じ思いで生きてきました。

 農業問題を単純に「嫁不足問題」に絞り込む描き方に、異論があるかも知れません。しかし、あえて単純化することによって、農業問題を考えるハードルを低くする、大地さんの狙い成功したと思います。

 私の田舎にも、フィリピンから「花嫁さん」が来ています。役場と業者(ブローカー)が一緒になって、マッチングを進めた時期があるようです。もちろん、批判する人はいるでしょう。批判が正しい面をもっていることも認めます。しかし、私は、単純に結論を出すことができません。私の中に、農業をすてたことへの「罪悪感」がずっとあります。

 それにしても、クリスティヌ役のアリス・ディクソン、よかったぁ。彼女の清楚さによって、この映画の後半はずっと締まりましたね。稲刈りをする田んぼで、偶然、正雄と再会する場面。稲刈りを手伝う正雄が、彼女との再会と稲の力で、自然と笑顔を取り戻していくシーンは、まさに「大切なものは土と水と太陽。そして、あなた。」(映画のキャッチコピー)。日本の農業がフィリピンの農業に触れることでよみがえる。
 
 大地さんの稲刈りの演技は合格です。稲刈りは刈るより束ねて縛るのが難しい。そのシーンがワンカット映っていました。大地さんは上手にイネの束を一回転させて縛っていました。「猛特訓した」とラジオで語っていましたが、出来はバチリでした。

 ただ、映画の最後は、まだ、ハッピーエンドにはして欲しくなかった。クリスティヌの別れの涙はそのまま。正雄も日本に帰国して一人で農業をやり続ける。そして、農業という舞台で再び偶然、再会する…というような展開はどうか。でも、それじゃ、二時間じゃ、終わらないか。

 ほんとに、エガッタヨ~。



■『恋するトマト クマインカナバー』
 ・大地康雄 企画・脚本・制作総指揮・主演
 ・南部英夫 監督


投稿者 mamoru : 2006年08月13日 09:25

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