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2006年04月17日

【書評】 『若者が働くとき』(熊沢誠、ミネルヴァ書房)

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 ●ノン・エリートへの一貫した「優しい眼差し」

 熊沢さんの書物は、どれも、働く者への優しい眼差しに貫かれている。本書中でも、不安定な雇用形態で一生働かねばならないかも知れないフリーターたちにむけ、こんな温かい言葉をかけている。

 「…将来の展望を喪って落ち込んだり、とりあえず刹那的な遊びやお笑いに日を過ごしたりするのも、ある意味では当然でしょう。何年も『ハンズ』としてのフリーター生活を続ける若者のまじめさに、私は、むしろある意味では敬意を覚えます」(P84)。

 フリーターの存在を「困ったこと」、あるいは正社員にむけてそこから「脱出させるべきもの」と描く学者が多い中で、「敬意を覚える」と書く学者を、私は、熊沢さん以外に知らない。

 この温かい眼差しは、熊沢さんの「フリーター支援策」の中にも表れる。

 「あえて言えばフーターがフリーターのままでも生活していけるような支援政策が必要不可欠です」(P97)

 フリーターを正社員にすれば問題が解決するかのような議論が多い中、熊沢さんの立場は違う。正社員として「燃えつきて」しまった若者が、フリーターとなる例が多いからだ。雇用形態にかかわらず、若者がちゃんとした生活ができるような労働環境にしていくこと、これが本書で熊沢さんが主張していることだ。

 全編、温厚な語り口で書かれているが、熊沢さんがキッパリとした口調で相手を批判した箇所がある。山田昌弘さんが『希望格差社会』の中で「正規雇用」と「非正規雇用」への分岐はグローバル経済下では「必然・宿命」、と論じたことへの批判である。

 山田さんがグローバル時代の「中核的労働」と「単純労働」への分岐に雇用の二極化の原因を見るのに対し、熊沢さんは「労働の質」の分岐を労働者間の差別的な処遇へと結びつけない力を労働組合は歴史的に持って来たし、又、持つべきだと言う。

 労働組合の力が限りなく衰弱している日本では、熊沢さんの言うことは「引かれ者の小唄」に聞こえるかもしれない。しかし、「不安定な雇用はゴメンだ!」と立ちあがり、CPE(初期雇用契約)を撤回させたフランスの若者、労働組合の闘争を見ると、グローバル下の雇用の二極化、不安定化は「必然」でも「宿命」でもなく、それは、若者、労働者、市民で決められることなんだ、ということに気づかされる。本書の射程の長さは、ここでも、証明されている。


  ■ 『若者が働くとき』(熊沢誠)
  ■ ミネルヴァ書房  2000円 

投稿者 mamoru : 2006年04月17日 23:25

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