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2006年04月16日

書評 『フリーターにとって「自由」とは何か』

本

 この本の特徴を一言で言えば、フリーター自身の筆による「フリーター階層の権利宣言」ということになろうか。著者は、1975年生まれというから団塊Jrそのものだ。大学院を修了しているので、一般的にイメージされる「フリーター」とはちょっと立場が異なるかも知れない。だが、魂はまぎれもなく「フリーター」だ。

 本書の主張が、他の類書とくらべて傑出しているのは、フリーターの存在を「困ったもの」、そこから「脱出させてやるべきもの」という考えを退けて、「フリーターがフリーターのままでも生きていける社会をめざす」と宣言していることだ。この点が(名前をあげて恐縮だが)他の売れ筋の本(『希望格差社会』や『下流社会』)とはひと味もふた味も違うところだ。

 そう言い切る著者には、ある信念がある。それは「存在の価値」は「経済的な価値」や「自立の価値」に優先する、という考えだ。ちょっと難しそうだが、こういうことだ。

 「たかがお金がない、安定した仕事がない、経済能力がない、それらの不足と欠損が、あなたが『生きる価値がない』ことを意味することは絶対にない、絶対に。」(p14)

 「フリーター」だけではない。「生きる価値がない」という眼差しを、日々むけられている全ての者たちへのエールの本なのだ。

 「格差社会」が流行語(ブーム)になり、それに便乗して数多の本がでている。相変わらず「若者の労働意欲のなさ」をバッシングするものが多いが、最近は、企業側の採用政策に問題があると、正しく指摘をするものも増えてきた。(例えば『「ニート」って言うな』)。だが、そうした論者の多くも、今後については、学校での「職業教育」の重視や、個人の「能力開発」を公がサポートする体制の整備を提言するにとどまっている。

 「たとえ能力が無くとも、そこそこ生きていける社会」という著者の「宣言」を、いささか眩しく感じるとすれば、それは、闇がまだ深いことの逆の証明なのかも知れない。


■『フリーターにとって「自由」とは何か』(杉田俊介)
■人文書院
■価格 1600円

投稿者 mamoru : 2006年04月16日 17:52

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