« 隔ての島から結びの島へ! 「無主」「両属」としての尖閣諸島(釣魚島)の構想を! | メイン | 会議は「成功」、気候対策に「失敗」―COP16 »

2010年11月18日

 ■ 「尖閣ビデオ」をめぐる議論で「語られない」こと

 現役の海上保安官が「尖閣ビデオ」を動画サイトに投稿した「流出事件」。その是非をめぐって色々な意見が飛び交っている。「国民の知る権利」に「国家公務員の守秘義務違反」さらに「刑事訴訟法四七条」とその「但し書き」の解釈などなど。難しい議論になっているが、本当は、かんたんな問題なんだと思う。

 例えば、あなたが核廃絶を訴える市民デモで「公務執行妨害」で逮捕され、若干の拘留のあと「処分保留」で釈放されたとする。そこで、あなたの釈放をよく思わない警察官が、あなたがデモ行進している様子を警察官側から写したビデオ(捜査資料)を入手して、ユーチューブに投稿したとする。ビデオにはあなたが警察官と押し合いへし合いしている様子がバッチリ映っている。会社の上司や近所の人達が見たようだ…。さて…。

 果たして、こんなことは許されるのか。答えは否だ。

 「ビデオ流出」をめぐる高尚な議論の陰で忘れられていることは「被疑者の人権」だと思う。裁判所で有罪が確定するまで被疑者は「推定無罪」。今回の件でこの原則を主張する人がいないのは寂しい限りだ。中国人には人権は無いのか。

 確かに仙石官房長官も「刑事訴訟法四七条」(訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない)を理由に、ビデオの「流出」を非難し「全面公開」を拒んでいる。立場的には私と同じだ。だだし、仙石がビデオを「非公開」にして守ろうとしているのは、決して「被疑者の人権」ではない。それとは真逆の「円滑な捜査」だ。私は、被疑者の人権・プライバシーを守る立場からビデオ等の「捜査資料」の公判前(法手続上は今もそうだ)の公開は許されないと思う。

 *   *  *

 「ビデオ流出事件」でもう一つ指摘しておきたいこと。それは海上保安庁・海上保安官とは何かということだ。映画『海猿』の連続ヒットで海上保安庁・海上保安官を「人の生命を守る人(組織)」と受け取る人が増えているが、それは一面的に過ぎると思う。

 想起すべきは九年前の奄美大島沖で起きた「不審船」撃沈事件だ。この事件で海上保安庁(巡視船二〇隻)は、自衛隊(航空機数機、自衛隊対潜哨戒機P3C、イージス艦など護衛艦二隻)と連携をとりながら、領海侵犯をしたわけでもない「小型船」(一〇〇トン)を三〇時間以上も追尾し、二〇ミリ機関砲で船体射撃を繰り返して、ついに撃沈し、乗組員一五人を死亡させた。「交戦」による相手方の死亡は戦後初のこと。

 つまり海上保安庁は武装した海の警察であり軍事機関なのだ。海難救助は任務にあるが、不審船とおぼしき船舶なら機関砲を打ち込むことも辞さない「海上警備」が主たる任務なのだ。その証拠に この奄美沖「不審船」撃沈事件の「工作船」や「回収品」を、海上保安資料館横浜館で誇らしげに展示している。「海上警備」の戦果の一つなのだろう。

 この奄美大島沖事件で「不審船」に接近して弾丸が尽きるまで船体射撃を行った「勇敢」な「巡視船」がいた。名前は「みずき」。当時第五管区の所属だったが第十一管区に転属になって、今回「尖閣」沖にも出動している。中国漁船による二回目の衝突の「被害」にあった「みずき」がそれだ。

 「みずき」は「不審船」対策専門の高速艇とし作られたが、「尖閣」沖ではなぜだか漁船が衝突するまでゆっくり進み、衝突されたあと一挙に加速して漁船から離れるという不思議な行動を取っている。その様子もユーチューブの「尖閣の真実」にしっかり映っていた。


  ☆『グローカル』12月1日号に掲載予定

投稿者 mamoru : 2010年11月18日 20:27

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://mamoru.fool.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/118