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2009年01月21日

 ■ 雇用攻防―「ワークシェア」「生活保護」「派遣法抜本改正」を考える

  正規/非正規「共生」のワークシェア

 日本経団連がワークシュアリングを言い出している。御手洗会長が経済三団体の新年合同記者会見(6日)で、雇用確保策について「ワークシェアリング(仕事の分かち合い)も一つの選択肢だ」と発言し、15日には連合の高木会長との会談でもチラつかせた。「順番が違うだろう」と思う。昨秋以降、数万人の派遣労働者を切り捨てて路頭に迷わせ、いまも「派遣切り」を続けている張本人が、反省も何も無く「雇用確保策」と称してワークシュアリングを提案する。まったく空いた口がふさがらない。
 だが、よく考えれば御手洗にとっては「順番通り」なのかも知れない。「過剰」な派遣労働者は契約途中でも解約し、残った2009年に満期終了を迎える者(23万9000人)は自動的に辞めてもらう。そして、次なる経費削減策がワークシュアリングだ。その対象の多くは連合系の組合に加入している正規社員だ。
 となると連合がこのワークシェアに慎重になるのにもうなづける。しかし、こうした連合の対応に歯がゆさも感じる。なぜ派遣切りが急浮上した時、対案としてワークシェアを提案しなかったのか、と。正社員の時短と賃下げを受け入れてもなお派遣社員の雇用を守る、という気概を示せば、圧倒的な世論の支持を得られたはずだ。それは「年越し派遣村」への共感が証明している。
 その「派遣村」の全国事務局を担った全国ユニオンは、昨年の一二月の春闘セミナーで「正規・非正規『共生』のための緊急ワークシェアリング」を呼びかけた。その内容は、正社員の「時短とワークライフバランス(仕事と生活の調和)の実現」と、非正規労働者の「雇用の確保」を同時に追求するもの。具体的には正社員を「レイオフ(一時帰休)」し、非正規労働者で生産を稼働させ、休業補償は雇用調整助成金で対応させる、というものだ(「連合通信」No.8139)。
 「時短」ではなく「一時帰休」としているところは議論の余地があるかも知れない。だが大企業正社員の「働き方革命」を視野に入れている点は大いに評価できる。ワークシェアの精神には「仕事の分かち合い」と同時に「自由時間の分かち合い」という面があるからだ。
 せっかくの御手洗からのワークシェアの呼びかけだ、「雇用確保策」としてどうあるべきか、「政」(政/与/野)「労」(正規/非正規)「使」(大/中/小)の三者による大討論会をやってほしいものだ。

 命をつなぐ「生活保護」

 いま、もっとも強く雇用の危機にさらされているのは、昨秋から続いている「派遣切り」の被害者だ。「派遣村」にたどり着いた者の中には、命の危機にさらされている被解雇者もいた。雇用からの排除が即、命の危機に直結する現実。その時、我が身を支えてくれるのは「生活保護」である。
 「派遣村」では「村民」約250名が生活保護申請をし全員が受給決定を得た。生活保護で命をつなぎ再就職をめざすことになった。この報道は多くの人に「生活保護は誰でも使える制度」と自覚させたに違いない。しかし、これは運動によって勝ち取った「超法規的な特別扱い」ではない。そうではなく「法律本来の姿」なのである(生活保護支援14団体の声明「『派遣村』での生活保護活用こそ、法律本来の姿」1月15日)。
 生活保護を「施し」ではなく憲法二五条が保障する「国民の権利」として社会の中に埋め直さなければならない。
 生活保護は命をつなぐ「最後の砦」であるが、本来、失業者の生活を支える安全網は雇用保険制度だ。しかし現行制度は対象が正規労働者であることを前提としており、非正規労働者の多くは未加入である(約1005万人)。政府は加入条件を現行の「雇用見込み1年以上」から「半年以上」に緩和するなど、手直しようとしているが、それでも858万人が対象外となる(『日経』1月15日)。学生アルバイトやパートなどの短時間労働者も含め、希望する全ての働く者が「雇用保険」に加入でき、さらに、給付期間を伸ばして余裕をもった再就職活動と職能訓練が可能となるような「雇用保険制度」の改正が必要だ。

 派遣の原則禁止と「均等待遇」

 「派遣切り」が人災であるという認識が広く行き渡る中、製造業への派遣禁止が浮上している。これは当然のことだ。
 労働者派遣法は、1985年に成立し86年に施行されたが、当初は13業種に限定されていた。それが1999年に原則自由化され、さらに小泉政権下の2004年の改悪で製造業への派遣禁止が撤廃された。自動車、電気などの製造現場では、コスト削減策として常用代替の派遣労働者が活用され(現在46万人)これによって「競争力」が強まり輸出を急増させた。この間、キャノン、トヨタなどの大企業は巨額の内部留保金(34兆円)をため込んだ。
 サブプライムローン、リーマンショックはこの流れを逆転させている。まっさきに切られたのが製造現場での派遣労働者だった。景気の調節弁としての「派遣法」の本領がまさに発揮されたのだ。しかし「派遣切り」の原因に対する政府の見解は異なる。
 「今回の事態はサブプライムローンに端を発する金融危機の影響が日本経済に波及したもので、労働法制に起因するものではない」(鈴木宗男衆議院議員への閣議署名の政府公式返答)。
 この後に及んで自公政権は、派遣労働者の大量解雇が労働者派遣法という労働法制の規制緩和に端を発する「政治災害」であることを否定しているのである。この壁をくずさなければならない。その最低ラインが労働者派遣法を改正して製造業への派遣を再禁止することである。
 しかし派遣法の問題点は、2004年に製造業への派遣が解禁になったことだけではない。サービス業でも、流通業でも、不安と背中合わせの派遣労働は禁止されなくてはならないのだ。そして、どうしも必要な場面においては、正規社員との均等待遇を実現し、派遣契約が切れても生活できる措置が取られなければならない。つまり1999年の原則自由化される以前の状態に戻すことを柱とする「派遣法の抜本改正」がなされなければならない。
 それには次のような内応が盛り込まれる必要がある。

(1)派遣事業は専門的、一時的、臨時的な分野に限定する。
(2)登録型派遣は禁止する。
(3)常用型派遣においても日雇い派遣は禁止する。
(4)常用代替を目的とした派遣、グループ内派遣は禁止する。
(5)派遣期間を限定し(一年)それを超えた場合は直接雇用と見なす。
(6)派遣先企業は、派遣先正規労働者と派遣労働者の均等待遇の義務を負う。
(7)マージン率の上限を規制し公開させる。
(8)派遣先の事前面接、特定行為を禁止する。等々。

 製造業への派遣禁止については、現在、民主党もふくめ全野党が合意しつつある。野党だけではなく与党のプロジェクトチームも提出済みの「派遣法改正案」の「修正」のための作業をはじめている。そこでは「製造業への派遣禁止」も検討課題だという。危機は前方へと扉を押し開きつつある。
 「2009年」問題で新たに生み出される「派遣切り」被害者への支援を強めながら、これ以上被害者を出さないための「派遣法の抜本改正」を勝ち取ろう。



 この文章は、『グローカル』090/02/01号に掲載予定のものです

投稿者 mamoru : 2009年01月21日 20:37

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