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2004年10月10日

 ■ 映画 『にがい涙の大地から』

●これを観れば、サッカー・アジアカップで「日の丸」が焼かれた理由がわかる! 
●これを観れば、小泉構造改革「株式会社による病院経営」の行き着く先がわかる!

 数年前、日本各地で旧陸軍が遺棄した毒ガスが発見されて問題になったことがある。私のすむ伏見区でも、龍谷大学の構内に埋められているとウワサになり、正式に調査が為されたことがあった。幸いにも結果はシロであった。

 日本国内もそうであるが、中国で旧日本陸軍が遺棄した毒ガスによる被害は、もっと深刻である。戦後だけでも2000人を越える人が犠牲になったという。2003年には、ハルピンで毒ガスによる事故で死者がでている。

 この映画は、日本政府を相手に訴訟に踏み切った、その被害者たちのドキュメントである。

 コンコン。ゼイゼイ。コンコン。ゼイゼイ。コンコン。ゼイゼイ。一晩中、うすぐらい部屋に響きわたる咳と淡をはく音。少し眠ると、また、コンコン。ゼイゼイ。コンコン。ゼイゼイ。コンコン。ゼイゼイ。映画は、なによりもまず、被害者のこの肉体的な苦しみに寄り添うところからはじまる。かつては、優秀な技術者だった男性。かつては紅衛兵として政治の先端にいた男性。二人で働いてようやく安定した生活を手に入れた夫婦。そうした中国の普通の庶民の生活を、突然、日本軍の毒ガスが襲う。生活は一変し、人生設計はメチャメチャなる。コンコン。ゼイゼイ。コンコン。ゼイゼイが続く。

 しかし、被害者の肉体的な苦しみを、倍加しているものがある。その一つが日本政府の対応だ。日本の裁判所(東京地裁)は、日本政府の加害責任を認め、被害者に賠償を命じた。しかし、日本政府は、それに応じていない。日本軍が、「大量破壊兵器(毒ガス)」を開発し、製造し、中国に持ち込み、使用し、遺棄し、戦後も放置し続けたことの事実認定を「保留」し(認めず)、原告には請求権がない(不法行為から20年以上経過している、日中共同声明で賠償請求権は放棄された)と突っぱねているのである。

 今となってはお笑いぐさだが、イラクに「大量破壊兵器」があると勝手に断定して戦争をはじめたアメリカを、右へならいで支持した日本政府が、しかし、自分が製造した「大量破壊兵器(毒ガス)」の製造と、使用と放置を、いまだに法的には「否認」し、裁判所が命じても、被害者に賠償すらしようとしないその姿は、まったくフセイン以下だ。

 この夏、サッカーのアジア杯で、中国人サポーターが「君が代」にブーイングし、「日の丸」を焼いて、日本と中国の双方で問題になった。中国の民衆の批判の背景には、戦後補償に背をむける日本政府のこうした姿があることは、日本ではほとんど報道されない。

 中国人被害者の苦しみを倍加させているもう一つの原因が、荒廃した中国の医療制度である。社会主義中国は「医療」や「教育」などの公共的部門は基本的に無料だ、などと宣伝されていたのはもはや遠い昔の話だ。「社会主義的市場経済」によって「市場原理」「利潤原理」が社会の隅々にまで浸透し、医療現場もまったく例外ではなくなっているようだ。

 映画では、高額な治療費を払えなくなった毒ガス被害者が、病院からあっさりと放り出されるさまが描かれている。これはショックであった。日本政府の蛮行以上に、私にはショックであった。

 世界の「工場」から「消費地」へ。そして、モータリーゼイション社会の到来。こう喧伝される中国だが、その発展の一方で、医療費を払えない患者が病院から放逐され、野たれ死にしていく事実がある。自己責任が強調されるアメリカならいざ知らず、あの「社会主義国」での話しである。

 共産党独裁(権力システム)に重なるように市場原理(貨幣システム)が、人々の生活世界を「植民地化」しているのが、今の中国の現状ではなかろうか。その姿は、病院の経営を「株式会社」にまかせようという小泉構造改革の行き着く先を、示している。

 監督の海南友子さんはこだわりの人だ。上映運動を進めながら、作り足しの作業をすすめているという。04年秋からは、作り足した『にがい涙の大地から』が各地で上映される予定だという。ほとんどの上映会が海南さんのトークとセットである。チャーミングな監督の語りも、映画におとらぬ秀作である。

■『にがい涙の大地から』(2004年/日本/カラー/ビデオ/87分)
 監督、撮影、編集:海南 友子
  http://www.kanatomoko.jp
 上映会の予定なども、このアドレスから。

投稿者 mamoru : 2004年10月10日 21:42

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