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2005年01月27日

 ■ 岩波ブックレット『憲法九条、いまこそ旬』を読んで

 新春早々の1月8日(土)。私が参加する「自衛官人権ホットライン」の例会があり、その場で、岩波ブックレット『憲法九条、いまこそ旬』を読んでの感想を報告させていただいた。
 「憲法9条」が「今こそ旬」かどうかはわかりませんが、「憲法議論」は「今が旬」であることは間違いなさそうです。以下はその時のレジメです。


岩波ブックレット
『憲法九条、いまこそ旬』を読んで

05/01/08 五十嵐 守


  1. 九条を論じる前に―憲法とは何か

    • (1)井上ひさしさんと鶴見俊輔さんの「違い」

      • 「憲法が優越」(井上)
      • 「憲法をふくめて、法の前にあるもの」(鶴見)

    • (2)立憲主義と硬性憲法

      • 立憲主義―人民の命令による国家の拘束
      • 硬性憲法―将来の人民を拘束
      • ギリシャ神話「ユリシーズとセイレン」
      • 人民の「自己決定権」(「間違う権利」を含む)が優越

    • (3)「コンスティテューション(constitution)」という発想

      • 憲法=constitution
      • constitution=憲法典(テキスト)を含む政治社会制度、習慣(イギリス的発想)
      • 憲法の「特権」視―改憲派、護憲派に共通
      • 庶民の実感、「改憲賛成」50%超、今、政治家に望むこと「改憲」3%(2001)
      • *この項、岩波新書『改憲は必要か』憲法再生フォーラム遍、杉田敦文章 参照


  2. 「九条を守る」って何を守るの?

    • (1)九条の会アピール

      • 「(改憲)その意図は、日本をアメリカに従って『戦争をする国』に変えるところにあります」
      • 「日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、『改憲』のくわだてを阻む…」

    • (2)自民党「憲法プロジェクト」の論点整理(案)…安全保障

      • 「自衛のための戦力保持を明記する」
      • 「国際協力(国際貢献)に関する規定を盛り込むべきである」
      • 「個別的、集団的自衛権にかんする権利を明記すべきである」

    •  (3)元気な「専守防衛」の立場に立つ「九条」派

      • 三木睦子さん 「自衛隊というのは、自分たちを守ってくれるから自衛隊だと思うのに、『戦争はしません』『武器は使いません』っていって、なにもイラクまで行く必要はなのです。」
      • 箕輪登さん(元郵相、元防衛政務次官)…自衛隊イラク派兵違憲訴訟
      • 小池清彦さん(新潟県加茂市長、元防衛庁キャリア官僚、)…イラク特措法反対の全国会議員への手紙

    • (4)公共哲学系学者による「穏和な平和主義」(自衛隊容認)の提唱

      • 墨守・非攻(小林正弥さん『非戦の哲学』(ちくま新書)
      • 穏和な平和主義(長谷部恭男さん『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)
      •  (立憲主義と「善き生き方としての絶対平和主義」は相容れない)

    • (5)求められる「絶対平和主義」派からの説得力あるビジョン

      • 「国家の自衛権」…と言う考え方…どう対応するか
      • 「攻められたらどうする?」…非武装、非暴力の抵抗運動…様々な方法の開発 (無防備地帯宣言、非暴力トレーニング)
      • 「国際協力」…自衛隊を国際救助隊「サンダーバード」に(水島朝穂さん)、非暴力平和隊(日本支部からスリランカに派遣)
      • 「国際的な集団安全体制」…東北アジア非核・非軍事地帯構想


  3. 、憲法の中にある身分制の「飛び地」

    • (1)皇室、皇族内部の確執、軋みの露呈

      • 皇太子「雅子の人格を否定する動きがあった」発言の波紋
      • 秋篠宮「自分のための公務はつくらない」
      • 天皇「皇太子発言、理解できない」(「強制でないことが望ましい」)

    • (2)「女帝」問題、一番大切なこと

      • 「左」「右」の陣営で「賛否」の論議…いいのだけれど
      • 女帝=愛子さんを天皇にする制度装置
      • 一番大切なこと、愛子さんのご両親の意向(家族・親族会議などで話し合う)
      • 「私たちの家系からはこれまで125人もの天皇を出してきたので、もうこの辺で終わりにしていただきたい」というよう発言は許されない
      • 「天皇は、政治的権能を有しない」(憲法第4条)

    • (3)本質的問題としての「天皇・皇族」の人権問題

      • 天皇、皇族に認められていないとされる諸権利
      • 政治表現の自由/国籍離脱の自由/外国移住の自由/職業選択の自由/婚姻の自由/皇室離脱の自由/財産を処分する自由/選挙権、被選挙権/養子をする等

    • (4)天皇、皇族の「不自由」はどこからくるか

      • 象徴天皇制(天皇から「政治」を剥奪…戦後リベラル派は歓迎)
      • 「飛び地」(長谷部恭男)として残った「身分制」(生身の人間=国家機構という矛盾)

    • (5)打開策としての「イギリス型立憲君主制」(開かれた皇室)

      • 立憲君主制…君臨すれど統治せず(政治的権能を有しない)
      • 象徴天皇制…神聖性=「心」の支配者としての立場は維持
      • イギリス王室「聖俗二世界論」(イギリス国教会首長は名目)
      •  (王は「俗」世界のキング、「聖」(心)は国教会が統治)

    • (6)天皇制をめぐるアナクロニズム

      • 自民党の「論点整理」―「政」の復権(元首化)と「聖」の強化(祭祀の公的行事化
      • 現実には「大衆天皇制」(松下圭一)を経て「俗」化が進行


  4. 、気分としての「改憲論」にどう対応するか

    • 希望格差社会の進行
    • 「負け組み」の鬱屈感を回収する保守革命
    • 平和主義と平等主義の再合流は可能か

投稿者 mamoru : 2005年01月27日 22:43

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