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2007年05月13日

 ■ 「俺は君のために…」のメッセージの希薄さ
「俺は、君のためにこそ死ににいく」
2007年日本映画・東映配給・2時間19分
2007年5月12日公開(全国東映系ロードショー)
監督:新城卓/製作総指揮・脚本:石原慎太郎
主演:徳重聡 / 窪塚洋介 / 筒井道隆 / 岸惠子

 今日(13日)、『俺は、君のためにこそ死にに行く』を観ました。他にもやらなければならないことが沢山あったのですが、昨日から全国上映がはじまったので、なんだか落ち着かなくて、朝一番で観ることにしました。

 総論的に言えば、良くできた映画、なんだと思います。岸恵子の熱演が光りますが、他の役者さんの「死」と「愛」と「別れ」もそれぞれ好演です。特に、中越典子がよかった。
 それに映画の最後を盛り上げる第71振武隊の特攻シーン。迫力満点。このシーンに一番お金を掛けたそうですが納得です。特攻機が米軍艦に突入して衝突する場面では、画面がガクンッと揺れ、座っている椅子から思わずズリ落ちそうになりました。そのくらいの迫力です。

 でも、この映画は成功しているか、と問われれば、失敗だった、と言わざるを得ません。泣けるシーンはふんだんにあるのに、ストンとくるものがないのです。その原因は「メッセージの希薄さ」にあると思います。

 とは言っても、メッセージが無いわけではなりません。特攻作戦の理不尽さは、情緒的にではなく歴史的・論理的にもしっかりと描かれています。軍令部が、日本の敗戦を見越した上で、「国体護持」と「五分五分の講和」のために特攻作戦に踏み切る。しかし、そんな事情などつゆ知らない「若鷹」たちは、日本の勝利を信じて命をなげうっていく…。この落差がこの映画の「切なさ」のベースです。石原の言う「苛酷な時代」です。この映画を「反戦映画」と評価する人たちは、ここに、当時の指導者への批判を見出し、二度と再び戦争を行ってはいけない、というメッセージを受け取るのでしょう。

 しかしです。それでも若鷹たちは、死への飛翔を行うのです。鳥濱トメさんに最後の想い出話しを残し、恋人や家族への想いを絶って、迷い、苦しみながらも…飛ぶのです。映画の中で、指導者が無能に描かれれば描かれるほど、この特攻隊員達の行動は、純粋で、美しいものに思えてしまいます。石原が言う「美しい日本人」です。
 ここで流れる「海ゆかば」。劇中の歌としてではなく、BGとして流されます。そして隊長の最後の言葉「靖国神社で会おう」。決して国の戦争に対してではないけれど、ここには、若者達が引き受けた戦争への賛歌があります。そして極めつけは映画の最後の最後にトメが放つ言葉。敗戦から15年後に幻影のようにトメの前に現れた特攻隊員達に向かって、トメは言います。「ありがとう」。この一言で、ここまで厚みのあった映画が、一瞬にして薄っぺらな特攻賛美の映画に変質してしまいました。

 「二度と再び戦争を行ってはいけない」という思い。同時に「戦死者への感謝(ありがとう)の気持」。この二つは、戦後社会が示した先の大戦に対する平均な態度だと思います。しかし本来、両者は矛盾するものです。本当に戦争への反省があるならば、日本国家は戦死者に「謝罪」しなければなりません。「感謝」などおこがましいのです。ましてや「顕彰」などゆるされません。「国民」もまた「感謝」ではなく静かに「悼む」という態度がふさわしい。
 
 タカ派の石原慎太郎が制作総指揮、脚本を担当し、空襲を体験している女優の岸恵子が主演したことで話題になったこの映画も、それが発する戦争に対するメッセージは、矛盾した戦後の平均的な世論の枠から一歩も出ていないと言わざるを得ません。これが、この映画に私が「メッセージの希薄さ」を感じた正体のようです。
 石原派はもちろん反戦派の動員をも狙った(?)この映画は、両方に「物足りなさ」を感じさせるかもしれません。興業の行方が気にかかります。

投稿者 mamoru : 2007年05月13日 22:02

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コメント

 石原脚本なら特攻賛美に違いない、と観ないで決めつけていましたが、実際そのとおりだったわけですね。
 
 初稿はもっと賛美していたはずです。それに岸恵子さんが不満を示し、改稿したそうです。双方の妥協があったのでしょう。そして両方の物足りなさ、という結果になったのでしょう。
 
 最近、戦争映画が多いですね。しかし、『人間の条件』のようなものは製作されません。また、『兵隊やくざ』のようなものも製作されません。控え目な戦争美化が多いように感じます。

投稿者 きとら : 2007年05月15日 00:50

Doblogでブログを書いているwarmgunともうします。

この記事に賛同したので、全文を引用させていただきました。
感謝します。

投稿者 warmgun : 2007年05月16日 13:12

記事を一部引用させて頂きました。
ありがとうございました。

投稿者 ツナミン : 2007年05月17日 20:03